アウトライナーで考える
アウトライナーは、箇条書きを並べて、インデントして、折りたたんで、並べ替えるだけのツールです。 それでも、使っているうちに考えがまとまります。
この記事では、その仕組みを認知科学の研究をもとに説明します。
同時に扱える情報の量
人間が頭の中で同時に扱える情報には限りがあります。 認知心理学の研究では、 一度に保持できる情報のまとまりは せいぜい数個とされています1。 長い電話番号を覚えにくいのと同じ理由です。
この限界を超えると、抜け漏れが起きます。 10 個の論点を同時に検討しようとしても、 後半を考えているうちに前半を忘れてしまいます。
アウトライナーの折りたたみは、この問題への対処です。
- ▶ 第 1 章(中に 12 項目)
- ▶ 第 2 章(中に 8 項目)
- ▼ 第 3 章
- 3.1 実験方法
- 3.2 結果
- 3.3 考察
- ▶ 第 4 章(中に 10 項目)
40 項目のアウトラインでも、 折りたためばトップレベルの 4 項目だけになります。 全体を見るときは 4 つ、第 3 章に取り組むときはその中身だけ。 画面に出す量を調整することで、 頭が処理できる範囲内に収まります。
認知科学ではこれを「チャンキング」と呼びます。 バラバラの情報をグループにまとめて 1 つの塊として扱うことで、 保持する数を減らす方法です。 アウトライナーの折りたたみは、 画面上のチャンキングです。
構成と執筆の分離
文章を書くとき、頭の中では複数の作業が同時に走っています。 「何を書くか」「どの順番で書くか」「どう表現するか」を 同時に考えている状態です。 同時に考えようとすると、どれも中途半端になりがちです。
オランダの研究チームが、 高校生にアウトラインツールを使って議論文を書かせる実験をしました。 アウトラインを先に作った場合、 文章の質が上がり、精神的な負荷が下がったという結果が出ています2。
理由は単純で、 「何を・どの順番で」を先に決めておけば、 書くときは表現だけに集中できるからです。 同時にやることが減れば、 それぞれに使える注意が増えます。
アウトライナーでは、 折りたたんだ状態で全体の流れを確認し、 各セクションにズームインして本文を書きます。 構成と執筆が物理的に別の画面になるので、 自然と分離されます。
書き出しと並べ替え
考えは、言葉にする前は漠然としたままです。 それを項目として書き出すと、 ひとつひとつが区切られた形になります。
書き出した項目を動かしてみると、 「これとこれは同じ話だった」「この順番の方が自然だ」 ということに気づくことがあります。 頭の中ではあいまいだった関係が、 画面上の配置として見えるようになるためです。
最初から正しい構造を作る必要はありません。 とりあえず書き出して、動かしてみて、 しっくりこなければまた動かす。 アウトライナーでは行ごとの操作が簡単なので、 やり直しの手間がほとんどかかりません。
1962 年、Douglas Engelbart は、 使う道具が知的作業の質に影響を与えると述べています3。 ノートアプリで同じことをしようとすると、 テキストのカット&ペーストとインデントの手直しが必要で、 一度書いた構造をそのまま使い続けることが多くなります。 アウトライナーでは構造の変更が容易なので、 何度でも試すことができます。
まとめ
- 折りたたみで、表示する情報量を頭が処理できる範囲に収められる
- 構成と執筆を分けることで、それぞれに集中できる
- 書き出して並べ替えることで、頭の中だけでは気づかなかった関係が見える
- 構造の変更が容易なので、やり直しに手間がかからない
Kosshi について
Kosshi は macOS / iOS 向けのアウトライナーです。折りたたみ、ズームイン、行の移動、検索など、この記事で紹介した操作をキーボードだけで行えます。
iCloud で Mac と iPhone 間を同期します。買い切りで、サブスクリプションはありません。
基本操作についてはアウトライナーとは?を、機能の詳細はガイドをご覧ください。
7 日間無料で試すFootnotes
-
Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97. ↩
-
De Smet, M. J. R., Broekkamp, H., Brand-Gruwel, S., & Kirschner, P. A. (2011). Effects of electronic outlining on students' argumentative writing performance. Journal of Computer Assisted Learning, 27(6), 557–574. ↩
-
Engelbart, D. C. (1962). Augmenting human intellect: A conceptual framework. SRI Summary Report AFOSR-3223. ↩